《対談 異彩のハーモニー》身の回りに隠れた資源

《対談 異彩のハーモニー》身の回りに隠れた資源
       

◆考え方で世界変わる 建築家 宮崎晃吉さん
◆地元に魅力たくさん G―FREAKFACTORY 茂木洋晃さん

本県有数の音楽フェスティバル「山人音楽祭」の運営に携わり、群馬にこだわった活動を続けるロックバンド「G―FREAK FACTORY(ジー フリーク ファクトリー)」のボーカル、茂木洋晃さん(49)=安中市=と、東京の下町で空き家をリノベーション(改修)してまちづくりに生かす建築家の宮崎晃吉さん(42)=前橋市出身=が対談した。地域に密着して活動する2人。ローカルを深掘りすることで見える可能性や、身の回りにある「資源」に気付く大切さについて意見を交わした。(第5月曜掲載)

◎空き家を宿に
2人とも地域密着の活動にこだわっている。
茂木 米国留学を終えて帰国した後、バンドをやるなら東京に出るのが普通だった時代に群馬でやる覚悟を決め、27年間やってきた。群馬のフェスとして山人音楽祭も続けている。東京一極集中型をローカルに向けたい一心でやってきた。

宮崎 東日本大震災の被災地でボランティアをした後、東京に戻ったら、大学時代に住んでいた台東区谷中のアパート「萩荘」が解体されることになっていた。お葬式代わりにと建築家やアーティストを集めてアートイベントを開き、柱に彫刻したり思い思いに作品を作って披露したら、3週間で約1500人が集まった。「ごみ」だと思われていた建物に詰まった思いを多くの人が語ってくれた。

大家さんがもったいないと感じてくれて、僕とお金を出し合ってリノベーション(改修)することになった。ギャラリーとカフェを併設した最小文化複合施設「HAGISO(ハギソウ)」として2013年に開業した。

借金をしたので部屋を借りられず、ハギソウに寝泊まりして銭湯で風呂に入り、商店街の飲食店で食べていたら、まちが一つの家のように感じた。そこでハギソウを入り口に、まちにあるものを使って、まち全体を一つのホテルに見立てることを思い付いた。別の空き家の大家を口説き、改修して宿泊施設「まちやど」にした。その後も空き家を紹介してもらい、総菜店や焼き菓子店など小さい店を少しずつ出している。

富岡市でも地元の洋品店主やイタリアンレストランオーナーと空き家を改修し、宿を作っている。洋品店でチェックインを受け付けて宿に案内し、まちを楽しめるようにしている。

茂木 あるものをもう一回再利用して、手あかがべっとり付いているみたいなのが、すごくいい。住んでいる安中市は空き家が多いし、鳥獣被害など問題もいっぱいあるのに市役所を移転する計画で新しいハコモノを作ろうとしている。すごくナンセンスだと思う。

安中には碓氷峠のすぐ下に、古い家が立ち並ぶ坂本宿がある。屋号の書かれた木の看板も立っていて、風情がある。多くの地方都市と同じように人口減少や過疎などの問題に直面しているが、最近はユーチューバーや熊本地震で被災した人など引っ越してくる人も多い。利便性はないけど地盤の固さや、山が見える景色に魅力を感じて来ている。やっぱり捨てたもんじゃない。地元の人が気付いていないだけで、身の回りには魅力的なものが多くある。

◎一つの場所を掘る
活動の根底にあるのは、身の回りの隠れた「資源」に価値を見いだし、それを磨く考え方だ。

茂木 まちのために何ができるか、年齢や職業に関係なく地元の人たちと話してきた。自分にできることとして、オリジナルTシャツを売った収益で安中の小学生に防災用ヘルメットを無料配布する活動を始めた。10年かかってもいいと思っていたら、たった2年で全員に配ることができた。今は中学生に配っている。小さなことでもいいから、俺ら世代がやらないと未来は何も始まらない。

宮崎 僕らがローカルの起点にしている谷中は東京ではあるけど田舎っぽい。建築は請負仕事なので、旅をしながら作るのが基本だけど、逆に一つの場所に根差して、そこをひたすら掘ることをやろうと思っている。ひたすら掘れば地球の反対側に届く。実際、わざわざ海外から来てくれる人も出始めている。

茂木 そう思う。もう何もないだろうってところを掘るのが、実は一番の近道じゃないかと感じる。あれもこれもとやっても、どんどんぶれていくだけだ。

宮崎 空き家のような思いの詰まったものは、ごみや課題というだけでなく、使い方を見いだされていない資源だと思う。身の回りの使ってないものも頭を使えば資源化できる。

自分たちの考え方、認識次第で世界はどうとでも変わる。そこが面白いところ。もし物質に絶対的な価値しかなかったら計測可能なものになっちゃうけど、僕らがどう認識するか次第で、ものの価値や大事さは変わって見える。

茂木 音楽もCDという物質を売るのではなく、データで配る時代になってきた。音楽ビジネス自体が形を変え、CDを売って得る印税では成り立たなくなっている。じゃあ、どうするかと言えばライブしかないと思っている。ライブで目の前の人をどれだけ高揚させられるか。ぶつかってその人に何かを与えるし、何かをもらえるところにかける。それが結果、お金になるんだったらいい。つまらなければ人は来ない。

◎自分のまち愛する
生まれ育った本県にも改めて感じる魅力がある。
宮崎 群馬はまちが粒立っていて、都市単位でそれぞれ面白さがある。前橋市なら冬に風で自転車が進まないみたいなワイルドな自然も身近にある。そういう都市の濃さと、自然が両立しているのが、このエリアの面白さだと思う。

茂木 年一回、1月の寒い日に、碓氷峠から山に登って山頂で日の出を見ている。仲間に三味線を弾いてもらい、コーヒーを飲むのが最高。探してみると、地元なのに全然知らなかった良い所がいっぱいある。

宮崎 土地の人が自分のまちを愛して、それぞれの幸せを作ることができれば、どこでも生きていける社会になっている。

みやざき・みつよし 1982年、前橋市生まれ。前橋高卒、東京芸大大学院修了。磯崎新アトリエ勤務後、2013年に「HAGISO」開設。同大特任准教授。1級建築士。

もてき・ひろあき 1974年、旧松井田町生まれ。新島学園高、米シトラスカレッジ卒。97年に「G―FREAK FACTORY」を結成。安中市在住。同市観光大使を務める。

 

  

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