下仁田町南野牧の世界文化遺産、荒船風穴のふもとにある屋敷地区に、日常を離れて心身を癒やす「リトリート」が体験できる一棟貸し宿「荒船いとわ」がオープンした。運営する山崎智博さん(43)=高崎市=は宿泊を通じ、観光客を呼び込み、限界集落となった同地区の景観や文化の維持にも貢献する考えだ。
空間プランナーとして都内で商業施設などの企画設計を手がけていた山崎さんは3年前、妻の親族宅がある同地区に初めて訪れ、産業遺産と手付かずの自然が共存する景観に心を打たれた。都市部の人にも風穴周辺の環境を知ってほしいとの思いから、空き家になった親族宅を改修し、今年3月に開業した。
宿のコンセプトは「ほどいて、むすぶ」。情報社会で張り詰めた感覚をほどき、再スタートを切れる場所を目指す。寝室などがある母屋のほかに、ヨガなどができる瞑想(めいそう)ルームやサウナ小屋、水風呂を備える。サウナ小屋は地場産木材を使用した。
風穴にゆかりのある絹産業や下仁田ジオパークを意識した意匠も凝らした。寝室のベッドにシルクカーテンをあつらえ、土間の壁は地層をイメージした模様にデザインした。
1日1組限定で定員14人。宿泊料金は時季により変動し1組1泊6万円~。家族連れや若い世代のグループを中心に利用があり、好評を得ているという。
風穴を見守ってきた同地区は現在、2世帯のみが暮らす。集落の景観を残したいと願う山崎さんは「人が訪れて泊まる“宿場”に役割を転換することで、集落の存在を後世に残せる」と強調する。今後は、町内の商店や農家などと連携した体験事業を充実させていくという。