深刻な社会問題となっている空き家を減らすためには、資源としての利活用が効果的だ。2015年に全面施行された「空き家対策特別措置法」に基づいて、県内の自治体は空き家の利活用を含めた対策に力を入れている。コロナ禍対応として、空き家の内部を撮影し、ユーチューブで物件を紹介する動画が注目を集める桐生市の担当者に取り組みを聞いた。
総務省が5年ごとに行う「住宅・土地統計調査」によると、2018年の桐生市の空き家総数は1万3170件、空き家率は20.9%でした。13年の空き家総数は9630件、空き家率17.3%で、5年間で3540件増えました。18年の本県の空き家率は16.7%、全国平均13.6%と比較しても高く、高齢化率の高い桐生市では今後さらに空き家の増加が加速することが予想されます。18年までに行われた空き家築年数の調査で、市内には1981年以降の新耐震基準を満たしていない物件が8割近くあることも分かりました。
空き家に対する苦情の大半は管理不全によるもので、問題が発生する前に利活用することが求められます。市はこれまで分散していた空き家に関する相談や苦情に対応する部署を一本化し、2015年度に都市整備部に「空き家対策室」を設け、問題のある空き家は所有者などを調べて問題点への対応を依頼し、利活用できる空き家は、「桐生市空き家・空き地バンク制度」を紹介して適正な管理につなげています。
昨年からは「定住促進室」となり、今まで以上に移住や定住希望者の支援にも力を入れています。市の人口減少の抑制、移住・定住の促進のため、住宅取得に最大200万円、空き家利活用に同100万円を補助する「きりゅう暮らし応援事業」、首都圏から市への移住者に一時的な経済負担を軽減するための「桐生市移住支援補助金」などを行っています。昨年9月からは、市空き家・空き地バンクに登録された空き家に付随する農地の取得下限面積を、これまでの旧桐生・黒保根地域30アール、新里地域50アールから、いずれも1アールに引き下げ、農業に興味を持つ移住希望者を呼び込み始めました。
桐生市空き家・空き地バンクは、今年5月現在155件登録されています。市ホームページ上に外観や所在地、価格、問い合わせ先などの基本データを掲載し、そのうち12件を動画投稿サイト「ユーチューブ」の桐生市公式チャンネルで紹介しています。
これまでは、一日に数件まとめて見学できる「空き家見学会」や首都圏などで行われる「移住相談会」で物件を紹介してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、昨年11月から新たな手段として動画の活用を始めました。
配信による物件紹介は職員が発案し、動画の撮影から編集まで行っています。
動画を見た人が、実際に物件を内見しているような気分を味わってもらえるように撮影しています。内見を希望する人の目線に立ってカメラを手に持ち、玄関から家の中に入り、各部屋を移動。部屋の特徴や各部屋との位置関係、細かな解説は場面ごとに字幕で表示しています。動画は3分程度にまとめ、静止画では確認しきれない動線、外観や周辺の様子、庭やベランダからの眺めなども確認できます。
「移住」「田舎暮らし」「家庭菜園」などのキーワードで桐生市に興味を持った人がサイトに訪れ、動画の再生回数は順調に伸びています。動画と字幕による説明の分かりやすさが好評で、今年4月までに1件成約になりました。順次、動画を増やしていきたいと考えています。
ユーチューブ 桐生市チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCFm80xBJcMOsCU7V4X2SCzw
桐生市は古くから織物のまちとして発展してきました。空き家・空き地はまちの活力を維持する「地域の資源」です。空き家が活用され、中古市場での流通が進めば、地域の活性化や人口減少の抑制にもつながります。空き家対策と移住促進が一つの窓口で対応できる強みを生かし、利活用できる物件は市空き家・空き地バンクにつなげ、手放す場合にも手厚く対応します。今後も情報発信に力を入れていきます。
取材協力/桐生市 都市整備部定住促進室
2021年5月27日付 すみかくらぶ 掲載